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平成30年度 学部学位记授与式 式辞

2019年3月18日
一桥大学長 蓼沼宏一

 卒业生の皆さん、ご卒业おめでとうございます。また、ご临席赐りました卒业生のご両亲などご家族の方々にも、ご来宾の皆様及び教职员一同とともに心よりお祝い申し上げます。
 皆さんがこの卒業の日を晴れて迎えられたのは、何よりも皆さん自身の努力と研鑽の賜物ですが、ご家族など身近な方々の支え、指導教員や友人からの助言や励ましもなくてはならないものであったことでしょう。さらに、一桥大学が長年にわたり蓄積してきた優れた教育研究環境、本学の諸先輩が築かれてきた伝統と実績、同窓会組織である如水会から受けた恩恵、そして、自由に勉学に打ち込むことを可能にしてくれた社会のサポートにも思いを至らせていただきたいと思います。
 本日、卒業する皆さんに、まず、これからの人生に幸多かれと心からお祈りいたします。一桥大学を巣立つ皆さん一人ひとりが、それぞれの道で自ら豊かな人生設計をされ、それを実現されることを願っています。

 さて、皆さんが活躍するこれからの時代には、社会経済のシステムが大きく変化していくと予想されます。科学技術が急速に進歩し、人工知能(AI)、Internet of Things、ビッグデータ、ロボット等が活用され、サイバー空間とフィジカル空間が高度に結びつけられる、いわゆるSociety 5.0の時代になれば、社会経済の仕組みも大きく変わることでしょう。新しい科学技術がどのように利活用されるのか、未だ明確には見通せないいま、必要なのはむしろどのような社会を実現すべきなのか、未来社会の在り方を構想し、そこに至る道筋を設計することであると思います。そのときには、社会とは何か、自由とは何か、ひとの幸せとは何か、といった根源的な問いにまで戻る必要があります。他方で、現代の様々な社会課題をエビデンスに基づいて把握し、現実の因果のメカニズムを解明し、課題解決に努める必要もあります。つまり、未来の在り方から出発する思考と、現実にある課題から出発する思考の両方が必要なのであり、最終的にその両者が繋がったとき、私たちはよりよい社会を実現することができるのです。
 このような時代こそ、一桥大学で社会科学を学んできた皆さんが活躍するときです。学問には、未来社会の在るべき姿を考える領域と、現実を把握し因果のメカニズムを解明する領域の両方があり、その両者はまた密接に関連しています。このことを、哲学と経済学を例にお話しします。

 アメリカの哲学者ジョン?ロールズは、『正义论』において、社会の基本构造や所得分配を定めるルールを导くための思考のフレームワークを构筑しています。现実の社会では、それぞれの个人が自分の地位、能力、资产などを知っています。しかし、ロールズは、こうした自分の置かれた特有の资质や境遇から、いったん离れなければ、人は正义に适う社会のルールを选択できないと主张します。そして、各人の特有の境遇を知ることのできない状态を「原初状态」とよびます。この原初状态では、谁も自分がどのような社会的境遇になるかが分からないので、自分に特に有利に働くように社会のルールを选択することができません。それだからこそ、そこで选ばれるルールは正义に适うとロールズは根拠付けるのです。さらに、どのような境遇になるか分からない状况では、谁もが最も恵まれない立场に陥る可能性を考虑するので、まず基本的な権利の平等を保障した上で、社会的?経済的不平等は最も恵まれない立场にある人々の便益を最大限に高める场合に限って许容されるという格差原理が选ばれると论じています。
 现実にはどの个人も自分に特有の地位、能力、资产などを知っているのですから、ロールズのいう原初状态は虚构に他なりません。正义に适う社会のルールは何かといった、现実にいまあるものではなく、あるべきものを考える规范の问题に対しては、虚构を描ける力が必要なのです。

 経済学にも同様に规范を描く领域があります。経済学の最も基本的な定理は、完全竞争市场においてはパレート効率的な资源配分が実现する、というものです。専门用语を简単に解説しますと、完全竞争市场とは、市场参加者の谁も価格をコントロールする力を持たないという状态であり、パレート効率的な资源配分とは、それ以上、すべての个人の便益を同时に高めることはできないという意味で无駄のない资源配分のことです。
现実の市场では、公司などが価格をある程度コントロールする力を持っていますから、完全竞争市场という概念もまた虚构です。さらに、この定理は资源配分の効率性に関するものであり、分配の公平性については何も述べていません。だからといって、この定理が无用であるわけではありません。定理が内包する因果の论理を理解した上で、完全竞争市场をベンチマークとして、现実にある市场のメカニズムを论理的に解明し、データ分析を通じてエビデンスを得ることによって、実际の経済における非効率性の要因を明らかにし、それを改善していく方策を求めていくことができるのです。つまり、现実を解明するためにも、ベンチマークとなる虚构が必要なのです。
 このような、いまそこにあるものではなく、あるべきものを描ける力こそ、生物の中で人间にのみ备わっている能力なのです。

 皆さんはこれからそれぞれの选んだ进路で世界に漕ぎ出していきます。その先には、ときとして困难な问题に直面し、乗り越えていかなければならないこともあるでしょう。しかし、怖れることはありません。未来の在り方から出発する思考と、现実にある课题から出発する思考の両方を駆使すれば、解决への道は见つかるはずです。
 皆さんは、一桥大学で専門分野を深く学ぶことを通じて論理的思考力を磨くとともに、少人数のゼミナールなどにおける教員や友人との対話を通じて、互いに誤りを正し、協力によってさらによりよいものを作り上げていく経験をされたことと思います。商学、経済学、法学、社会学といった学問分野はどれも、混沌とした現実の問題や規範的な問題から本質的な要素を抜き出し、概念化し、論理的思考によって問題の解を見出すための方法?フレームワークを作り出してきました。専門分野を勉強する目的の一つは、知識を豊かにすることですが、それ以上に、汎用性の高い思考方法を習得することが重要なのです。皆さんは専門分野の勉学を通して得られた思考の方法とフレームワークを、これからも大いに活かしていってほしいと思います。

 それでも、人间は事実认识や価値判断において误りを犯すことがあります。ジョン?スチュアート?ミルは、『自由论』の中で、「人が判断力を备えていることの真価は、判断を间违えたときに改めることができるという一点に」あり、「人は议论と経験によって自らの误りを正すことができる」と述べています。それだからこそ、他者との対话は重要なのです。
 ミルのこの主张は、现代において、2つの点でさらに重要な意味を持つに至っています。まず、社会が急速にグローバル化する中で、グローバルなレベルでの対话が一层必要になっています。皆さんはこれから海外に出る机会も多いことでしょう。歴史も文化も惯习も异なる地に身を置く中で、その地の人々との対话を通じて自分のそれまでの思考方法や価値判断を相対化し、见直すことによって、より普遍的な判断を得るように努めてほしいと思います。
 一方、现代ではインターネットなどの情报伝达手段が格段に进み、情报が溢れかえって混乱し、事実を见出せないという问题が起きています。どの情报も事実の一面を切り取って解釈したものに过ぎず、情报の荒波の中で、逆に真の事実が见えにくくなっています。様々なメディアやネットという表に出た情报の里に、たくさんの事実があることを知らなければなりませんが、それには大変な困难と労力を要します。私たちが真の事実を知るためには、个の能力を超えて、他者との対话が必要です。次の时代を担う皆さんは、冷静な论理による现状认识と的确な规范的判断を持つとともに、他者との関わりの中で説明と议论を経て真の事実と目指すべき姿を见出しください。

 现代の日本を含む世界には多くの困难な社会课题があります。皆さんが入学した4年前から现在までを考えても、灾害や事件が重なり、诸问题の记忆は风化し、何が重要な课题であるかの判断も钝くなり、忘れてはならない教训までも置き去りになりかねない时代です。世界を见渡すと、経済活动の急速なグローバル化が进む反面で、自国のみを优先するかのような主张が强まりつつあり、その矛盾がどのような帰结を生じるのか忧虑されます。世界的规模で所得格差は広がる一方で、政治的、経済的、あるいは思想的な対立の沟は、埋まることがありません。日本に目を向ければ、巨额の财政赤字を抱えて経済の不安定な状态に変わりはありません。少子高齢化は止まらず、医疗?介护と社会保障は最大の社会経済问题になっています。
 一方、进化する础滨が、ある面では人间の能力を上回るようなことも起こってきています。これまで人间が担ってきた仕事でも、础滨やロボットが担ったほうが正确に処理できるケースも増えていくことでしょう。そもそも人间とは何か、人の役割とは何かが问われてきます。一方、础滨、滨辞罢、ロボットなどを活用すれば、多様なサービスがより広く人々に行き渡るとも言われています。科学技术の急速な発展をいかに社会が受け容れ、活用すべきなのかという新たな社会?経済?法の问题に私たちはいま直面しているのです。
これら社会課題の解決に向けて貢献することは、真の実学、すなわち社会に実りをもたらす学問としての社会科学の使命であるとともに、一桥大学で社会科学を学び、今日、巣立っていく皆さんの責務でもあります。若い皆さんは、大きな転換点を迎えている世界に漕ぎ出し、ぜひ、情熱をもってよりよい社会の実現に貢献する働きをしてほしいと思います。

 皆さんが4年間、学んできた一桥大学は、日々研究に打ち込む教員が一人ひとりの学生に向き合い、丁寧な教育を行う学び舎です。少人数ゼミナールなどを通して教員と学生、あるいは学生同士の距離が近く、互いに学び合うという空気が自然に醸成されている大学です。その本学で学ぶことによって培われた皆さんそれぞれの資質は、社会に出てから様々な場面で他者と共に働くときにも必ず活かされると思います。そして、大学で得られた人と人との絆は一生の宝となることでしょう。自信をもって一歩を踏み出してください。

 本学の卒業生の皆さんは、大学での勉学をもとに社会へ出て、あるいは研究を続け、これからいろいろな経験を積もうという意欲を持ち続けている人が多いと感じます。その卒業生にとって、一桥大学は「港」のような存在でありたいと私は考えています。様々な社会経験を経て多くの課題に気づくとき、現場での知識や経験のみでは切り抜けられず、正しい判断をするために基礎となる学問が生きてくることもあるでしょう。
 さらに、础滨などの科学技术が急速に进歩する中で、理系の技术者だけでなく経営?管理や高度専门职に携わる人にも、数理的推论やデータ分析を駆使して社会や経済を捉える高度な力が求められるようになってきています。础滨の开発はできなくとも、少なくとも础滨の仕组みは理解し活用する能力は必要になるでしょう。知识やスキルが陈腐化するスピードも速くなっていますから、社会に出てからも、文系?理系の枠を超えて常に新しいことを学び続けることが大切です。大学时代に一つの専门分野を深く学ぶという経験をした皆さんは、新しい学问分野や内容に直面したときにも、新たに学び、思考のフレームワークを作り直していくことができるはずです。そのとき、皆さんが再び大学という落ち着いた场で学び、様々な能力を高めたいと考えたならば、思う存分学ぶことができる、そのような场を本学は提供し続けていきたいと思います。そして大学は、基础的研究が机上で孤立したものではなく、世の中で抱えている课题を背负ったときに生かされるように努めていくべきです。
 ですから私たちもまた、今日卒业する皆さんがそれぞれの现场で见出した问题意识を再び大学に投げかけてくれることを期待しています。学问にゴールはありません。学问とは、事実と目指すべき姿を见出すために人间が作り出した思考のフレームワークであり、それは常に新しい経験に晒されることによってブラッシュアップされていかなければならないものなのです。大学は社会をよりよくするための知的资产を创造する场です。経験と理论がぶつかり合う中から新たな知が生まれてきます。その创造のプロセスを共に歩もうではありませんか。

 皆さんはこれからそれぞれの选んだ道を歩まれます。何よりも自分が自分らしくあり、生き生きと活跃の场を与えられることほど幸せなことはないでしょう。しかし、はじめから理想や梦を掲げ、それを実现できたと思える人はごく稀です。どのような场にあっても日々の役割を主体的にかつ诚実に実行するなかで、徐々に自らの天职は何であるかが见えてくるものなのではないでしょうか。
 世界という広い海に漕ぎ出していく皆さんの前途は洋々としていますが、ときとして困难もあることでしょう。しかし、磨かれた己の「知」と感性を駆使し、惧れることなく道を切り开いていってください。
 そのエールを送り、私からの饯の言叶とさせていただきます。

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